幼児における知識獲得過程についての理解の発達
幼児はどのように理解し、どうして誤るのか?

長田瑞恵
お茶の水女子大学 大学院人間文化研究科
「人間文化論叢」 第5巻 (2002年度) 2003年3月発行 抜粋

問 題

本研究は幼児における知識や知識獲得過程についての理解の発達を検討する。知識や知識獲得過程についての理解やその発達について検討することは重要である(齋藤、2001)。なぜなら知識や知識獲得過程について理解することによって、知識獲得方略についての知識が発達し、そのことによってまた知識や知識獲得過程についての理解が深まる可能性があるからである(c.f.,Brown,1978;Schneider,1985)。特に理解の発達が著しいと考えられる幼児期に焦点を当てることで理解の実態やその発達がより明らかになるだろう。

知識や知識獲得過程についての理解に関してPerner(1991)は「知識の理論」を定式化した。彼によれば成人にとって知識とは
@真実、すなわち事実についての正しい表象を作ること、
A適切な情報へのアクセス、すなわち事実についての信頼できる情報にアクセスすること、
B行為の成功、すなわち事実に関する正しい行為を可能とすること
の3つの側面を持つという。このPerner(1991)の主張を踏まえて齋藤(2000)は、知識や知識獲得過程についての幼児の理解の発達を検討した。具体的にはPerner(1991)の定式化に基づいて「真実」「適切な情報へのアクセス」「知識に基づいた行為の成功」の3側面を設定し、各側面について異なる状態にある二人の登場人物によるストーリーを幼児に提示し、どちらの人物が対象を知っているか判断させた。その結果、知識や知識獲得過程についての理解は加齢と共に進むことが示された。

しかし齋藤(2000)では課題構造が3側面で異なっていた。すなわち「真実」と「適切な情報へのアクセス」では「Aをする人物とAをしない人物」の区別を問う課題構造であったのに対し「知識に基づいた行為の成功」は「知識に基づいてAをできる人物と偶然にAをできる人物」の区別を問う複雑な課題構造のものが含まれていた。そのために特に年少児の「行為の成功」の理解を過小評価していた可能性があった。ここで本研究ではまず実験1において「行為の成功」の課題を「Aをできる人物とAをできない人物」の区別に単純化することによって幼児期における知識や知識獲得過程についての理解をより詳細に検討することを第1の目的とする。具体的には知識や知識獲得過程についての理解として以下の3側面を持つものとして定義した。

@真実
事実についての正しい表象を作ること。
A適切な情報へのアクセス
見たり信頼できる情報提供者から告げられたりというように、事実についての信頼できる情報にアクセスすること。
B行為の成功
他者に正しく情報を与えたり何かを見つけたりというように、事実に関する正しい行為を可能とすること。

幼児は加齢と共に知識や知識獲得的過程とは「適切な情報へのアクセス」「真実」「行為の成功」の3側面から成るものとして理解を発達させていくと予想される。そして3側面の発達の順序に関するPerner(1991)の主張をふまえれば、まず3歳より前に「行為の成功」について理解が進み、4歳頃に「適切な情報へのアクセス」について理解が進むものと予想される。

本研究の第2の目的は、知識や知識獲得過程についての理解を4歳児に焦点をあて詳しく検討することである。Perner(1991)の主張に基づけば、4歳頃に心の表象理論の発達に伴って知識や知識獲得家庭についての理解がより進むと予想される。しかし齋藤(2000)の結果では4歳児の成績は3歳児よりも優秀ではあるが、5歳児に比べてかなり劣っていた。それでは4歳児が「知る」課題に正答できないのはなぜであろうか? この問題について実験2では教授実験によって検討する。

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