俳句・短歌 平成15年の作品

薫藤園ご利用者・ご家族、職員の俳句・短歌作品です。(順不同・敬称略)

平成15年秋~冬の作品

はじめての手のひらほどの熊手買ふ
ブローチに小枝を挿され雪だるま
菜園の大根を提げ下枝せり

今成公江

獅子舞の大き口より賜ふもの
喰積や上手になりし箸使ひ
篝火かがりびの火の粉をうけて除夜詣

柴崎加代子

窓ひとつ隔てし枯野鳥あそぶ
菊風呂に心ほぐれし姥の幸
富士見んと佇てば師走の風しずか

野村節子

立ち上がる煙の先に冬の山
あわただし事務所に赤きシクラメン
小春日に時の止まりし車椅子

小林芳雄

髪あげてまぶしきまでの春着の子
泣きべその子を抱き走る運動会
元旦の弾む声にて目覚めけり

古山清美

応接間の書架に日の入る漱石忌
禅寺のほうき目の跡木の葉おく
過ぎし日々友と語らい野菊摘む

川邉義雄

秋刀魚好きの友晴天に逝きにけり
打ち上げしボール光て秋高し
朝寒や浦の小舟に影ふたつ

掛谷弘史

平成15年夏~秋の作品

さざ波の寄する沼より秋の声
つばめ去る儀式のごとく旋回し
廃屋の軒に押し寄せ蛍草

柴崎加代子

近づけば放尿浴びせ油蝉
ひぐらしの鳴きて闇せまり来し

小林芳雄

帰省してまず仏だんに手を合わせ
一人来て次々と来る盆の宿
帰省して誘われ入る踊の輪

古山清美

薫藤園バスの窓より蓮の花
百日紅ままごと遊びのお赤飯
夕立の去りてたちまち蝉の声

長森きみ

痛む手をかばいて介護玉の汗

根岸松子

親切なホームのくらし梅雨あける

町田清子

琴の音に始まる敬老祝賀会
網引きのあとの放心天高し
傍らに辞書置き灯火親しめり

今成公江

枝豆とホップの香り我至福
夏帽子我が子見つけた母笑顔
原色の浴衣の娘等の高き声

掛谷弘史

柿熟れば塀を登りて実を椀ぎし
 征きたる義兄のおもかげを見つ

白萩の花群に寄る蜆蝶
 ゆらゆら舞えり翅光りつつ

中島ひろ子

樹をつつむ花は今なき美の山を
 ふたたび訪へば峰悠ゆうと

蝉の音が小さくなりて冷夏告ぐ
 稲の花咲くひと日案ずる

野村節子

平成15年春~夏の作品

燕来る上昇旋回空を切り
梅雨に入るポトポトポトポト光る石

小林芳雄

梅干すや母のやうには仕上がらず
藍瓶の干さるる軒端星祭る
踏み入るを拒みし古墳草いきれ

柴崎加代子

また同じところでかかり蜘蛛の網
蓮池に憩ふ善男善女かな
下闇の堂に伝はる噴火秘話

今成公江

盆灯籠明るく点しバーベキュー
背伸びして七夕竹に夢結ぶ
まな板の音と競うや遠花火

古山清美

田植えすみ青田に春の風そよぐ
青田のび風にゆられてさやさやと

長森きみ

手話つかい高校生のボランティア
 箱根八里の半次郎に沸く

札幌の旅ソーランの
 祭り太鼓にパワーをもらう

利根を背に羽生の里に生受けて
 大堰に入る夕日に向かう

野村節子

夏まつりホームの庭は夕映えて
 老いも若きも踊り楽しむ

小さき手を無心に振りし愛子さま
 お健やかにと国あげて沸く

夏くれば祖母の思ほゆもぎたての
 トマトは井戸に浮かび光れり

歩むにはまだ先なれど幼児の
 赤き布靴玄関にあり平成十五年

中島ひろ子

平成15年春の作品

春雨や二羽の鷺舞う祝の宴
春雨や似合いの夫婦祝い酒
おごそかに誓いの言葉春の雨

小林芳雄

成人のまぶしきまでに晴れ着の娘
隣までのびて清やかるふきのとう
デイサービス昼餉にのせて蕗の薹

古山清美

九十八歳星影のワルツ全唱し
 つやめく声とこの記憶力

百名の小五の生徒の慰問受く
 自作自演に老らよろこぶ

思い出に紫ビーズの指輪買う
 はとバス終点丸ビルにぎわう

野村節子

由緒ある社におおき歌碑立てり
 大安吉日四月四日に

歌碑は立つ日本武尊に縁ある
 鷲宮神社の杜叢しゃそう背にして

召人の歌碑の建立寿ぎて
 奏でる箏曲うっとりと聴く

長須房次郎